丘浅次郎の名言紹介を続けます。
「この間、ある雑誌を見たところが『国と国との間には法律も道徳もないから、いかなる手段をも遠慮なく用いて、ただ勝つことをつとめよという人があるが、これは大間違いである、現に今日(こんにち)日本は正義のために戦い、露国は真偽かまわぬ国であるから、世界はみな日本に同情を表しておるではないか、正義は実に最強の武器である』と書いてあったが、われらから見るとこれこそ大いに間違った議論である。もし同情というものが言葉だけであるならば何の役にも立たず、決して弱国をして勝たしめるごとき効力はない。かりに先年英国とトランスバールと戦うたときに世界中でトランスバールをほめ立てたと想像しても、決してそのためにかの国が英国に勝ちえたろうとは思われぬ。動物でも甲と乙とが争うときにそのために利益を得るところの丙は必ず喜ぶが、国と国との間も全くそのとおりで、甲乙二国の戦うている間に利益を占め得(う)べき位置に立つ第三者の国が大いに喜ぶのはもちろんである。一国の勝利が自国にも利益をおよぼす時でなければ、決して喜ぶべきはずはない。一国が負けて弱ったのを喜ぶのはすなわち自分の敵国たるべき資格のある国が弱ったからこれを喜ぶのである。今度の戦争でも露国の負けたことを喜ぶ国はもちろん多いであろうが、日本の勝利を利害得失(りがいとくしつ)に関せずして喜ぶものはおそらく日本一国だけであろう。今日(こんにち)諸外国からわが国に寄せてくれる同情に対しては大いにその厚意を謝せなければならぬが、その同情なるものが真にいかなる価値を有するものであるかは、今後諸外国がわれに対する所行によって漸々(ぜんぜん)明瞭になるであろう。」
上記の「トランスバール」というのは、現在の南アフリカ共和国の北部の辺りに1852年から1902年まで存在した「トランスバール共和国」のことです。トランスバール共和国は第1次ボーア戦争(1880年~1881年)ではイギリスに勝利しましたが、第2次ボーア戦争(1899年~1902年)ではイギリスに敗北して滅亡し、イギリスの植民地となりました。
それでは今回はここまでとして、次回はこの続きからご紹介しましょう。
(文責:弁護士 澤村康治)