澤村こうじ法律事務所

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コラム2025年1126

名言紹介(56)「丘浅次郎 その6」

 丘浅次郎の名言紹介を続けます。

「生存競争なるものはいかなる場合においても、必ず物資の供給と需要との不権衡(ふけんこう)から生ずるのである。それゆえ、生存競争のはげしさは全く需要と供給との不権衡の程度に比例せざるをえない。二匹の犬に二匹分の肉を分けて与えれば争いは起こらぬが、一匹分の肉を見せるとただちに喧嘩が始まる。十名の新入学を許すべきところへ、二十名の志願者があればとうてい競争は避けられぬが、もし五十名の志願者があればさらに劇烈に競争せねばならぬ。人類の国と国との競争もこれと同じく、アジアやアフリカになお取るべき広い地面のある間は劇烈な競争にもおよばぬが、すみずみまで分割して、経営しつくした暁(あかつき)にはいかに成り行くことか、おそらく今日よりさらに劇烈な競争を避けることはできぬであろう。世界の人口の増加するにしたがい、個人間にも、団体間にも生存競争のますますはげしく成り行くはまぬがれざるところであるが、個人と個人との間には道徳や法律の制裁があるに反し、国と国との間にはかようなものは一切ないから、弱い国は今後ますます逆境におちいり、ついには他に滅ぼされるのほかはない。今日小さくて弱い国が大きく強い国の間にはさまれて独立している例もあるが、これはやはり列国の生存競争の結果で、決して隣の国が内心からその国の独立を尊重しているわけではない。それゆえ、今後ある機会に遇(あ)えばおそらくいずれかに併呑(へいどん)せられるをまぬがれぬであろう。また決して他の国を攻め取らぬという平和主義を看板にしている国もあったが、かかる国は必ず土地が広く人口が少なくて、他国を取る必要のない国柄(くにがら)のもののみである。しかもこれはいつまでも続くわけではなく、人口が稠密(ちゅうみつ)となって形勢が変わってくると、いつの間にか先の宣言を忘れて、他国を攻撃するにいたるが、実にやむを得ざることである。されば平和主義を唱える国はもちろんほめておくべきであるが、いつまでもこれが続くと考えるのは大間違いで、他日敵国となるの資格は充分あるものと覚悟しなければならぬ。要するに人類の生存競争における最大単位なる国と国との間の競争はとうてい避けがたいことであって、今後人口の増加、土地の開拓とともにますます劇烈になるものとみなすのが適当である。」

 名言紹介(52)でご紹介したとおり、丘のこの名言は1905年(日露戦争の終わり頃)に書かれたものですが、その後の第1次世界大戦(1914年~1918年)・第2次世界大戦(1939年~1945年)の経緯・実態を言い当てているようで、冷酷で悲惨な未来予測ではあれど、驚くほどの先見の明も感じます。
 それでは今回はここまでとして、次回はこの続きからご紹介しましょう。

(文責:弁護士 澤村康治)
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