澤村こうじ法律事務所

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コラム2022年0619

名言紹介(16)「夏目漱石 その7」

 前回の問題の解答は「江戸川乱歩(えどがわらんぽ)」です。簡単すぎたでしょうか笑
 さて夏目漱石の名言紹介を続けます。

「夢ならばと一笑(いっしょう)に附(ふ)し去るものは、一を知つて二を知らぬものなり。夢は必ずしも夜中臥床(やちゅうがしょう)の上にのみ見舞(みまい)に来(きた)るものにあらず、青天にも白日にも来(きた)り、大道(だいどう)の真中(まなか)にても来(きた)り、衣冠束帯(いかんそくたい)の折(おり)だに容赦なく闥(たつ)を排して闖入(ちんにゅう)し来(きた)る。機微(きび)の際(さい)忽然(こつぜん)として吾人(ごじん)を愧死(きし)せしめて、其(その)来(きた)る所(ところ)固(もと)より知り得(う)べからず、其(その)去る所(ところ)亦(また)尋ね難(がた)し、而(しか)も人生の真相は半ば此(この)夢中にあつて隠約(いんやく)たるものなり。此(この)自己の真相を発揮するは即(すなわ)ち名誉を得(う)るの捷径(しょうけい)にして、此(この)捷径に従ふは卑怯(ひきょう)なる人類にとりて無上(むじょう)の難関(なんかん)なり。願わくば人豈(あに)自(みずか)ら知らざらんや抔(など)いふものをして、誠実に其(その)心の歴史を書かしめん。彼必ず自ら知らざるに驚かん。」

 意訳すると「『夢の話ならば、どうということはない。』とあざ笑う者は、応用力のない者である。夢(注:前回同様、ここでは夢想・妄想・幻想に近い。)は必ずしも夜中に寝ているときにだけ人間の脳内にやって来るものではなく、晴れ渡った真昼にもやって来るし、大きな道の真ん中を歩いているときにもやって来るし、正装した儀式の最中にさえ容赦なく扉を破って侵入して来る。夢は微妙な状況下でも突然やって来て我々に死ぬほど恥ずかしい思いをさせるが、それがどこからやって来るのかは勿論分からないし、それがどこに行ってしまうのかもまた分からず、しかも人生の真実の姿の半分はこの夢の中にあってはっきり分からないものである。この自己の真実の姿をさらけ出すことが名声を得る近道であるが、この近道を行くことは卑怯な人類にとって最も難しいことである。願いが叶うならば『自分自身のことは自分自身で分かっていて当然である』などと言う者に、誠実にその者の心の歴史を書かせたいものである。そうすればその者は必ず自分自身のことを分かっていないことに驚くであろう。」といった所でしょうか。

 確かに自分自身の心の中を無意識の領域も含めて完璧に把握して、しかもそれをありのままにさらけ出して小説などに表現できる人間はなかなかいないでしょうね。漱石はこれを「卑怯なる人類にとりて無上の難関」と言っています。
 それでは今回はここまでとし、次回はこの続きからご紹介しましょう。

(文責:弁護士 澤村康治)
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