夏目漱石の名言紹介を続けます。
「人豈(あに)自(みずか)ら知らざらんやとは支那(しな)の豪傑(ごうけつ)の語なり。人々自ら知らば固(もと)より文句はなきなり。人を指して馬鹿といふ、是(こ)れ己(おのれ)が利口なるの時に於(おい)て発するの批評なり、己も亦(また)何時(いつ)にても馬鹿の仲間入りをするに充分なる可能力を具備(ぐび)するに気が付かぬものの批評なり。局に当(あた)る者は迷ひ、傍観(ぼうかん)する者は嗤(わら)ふ、而(しか)も傍観者(ぼうかんしゃ)必ずしも棊(き)を能(よ)くせざるを如何(いかん)せん。自ら知るの明(めい)あるもの寡(すく)なしとは世間にて云(い)ふ事なり、われは人間に自知(じち)の明(めい)なき事を断言せんとす。」
意訳すると「『自分自身のことは自分自身で分かっていて当然である』というのは中国の豪傑の言葉である。人々が自分自身のことを分かっているならば、勿論文句はないのである。他者のことを馬鹿と言う者がいるが、これは自分が利口であるときに言っている批評であって、自分もまたいつでも馬鹿の仲間入りをするのに充分な可能性を有していることに気が付かない者の批評である。現下の局面に対処している当事者は迷い、それを傍観している者は笑うが、傍観者は必ずしもその局面に上手く対処する能力がないから始末が悪い。『自分自身のことをはっきり分かっている者は少ない』というのは世間で言われていることであるが、私は『自分自身のことをはっきり分かっている人間などいない』と断言しようと思う。」といった所でしょうか。
漱石の非常に俯瞰した視点が感じられて、面白いなあと思います。
それでは今回はここまでとし、次回はこの続きからご紹介したいと思います。
(文責:弁護士 澤村康治)