名言紹介の第51回目は明治・大正・昭和期の動物学者で、ダーウィンの進化論を日本に広めた:丘浅次郎の言葉です。
かなり長いので多数回に分けてご紹介していきたいと思いますが、要点を先述しておくと「人類の生存競争も他の動物の生存競争と同様、弱肉強食・適者生存である。高等動物である人類が現在よりもっと進歩しさえすれば、生存競争がなくなるとか戦争がなくなるなどという説を信じて、現在及び未来をただただ楽観視していては危険である。」というように表せると思います。
丘は適者生存論(「生存競争において、環境に最も適応したものが生き残る」という考え方)を人類にもそのままあてはめて議論を展開しており少し極端かと思われますし、そのような議論は帝国主義を正当化する論理として悪用されたりした過去もあったようですが、それでも丘の未来予測はかなり的中していますし、現在の世界情勢などに鑑みても、やはり参考になる見解ではないかと思います。
「世(よ)には人類の生存競争と他の動物の生存競争とは全く種類の違(ちご)うたものであると考える人がある。中には高等動物になればなるほど、生存の競争がゆるやかになり、下等動物に見るがごとき咬(か)み合い殺し合うような残酷なことはなくなってしまう、今日(こんにち)人類に生存競争のなお絶えぬのはいまだ人類が不完全なるゆえであって、人類が今日(こんにち)よりも進歩さえすればついに全く生存競争はなくなるという説を唱える人もある。また世の文明が進めば、今日(こんにち)おのおの独立している国々はすべて連邦となり、全世界を統一した一大(いちだい)合衆国ができて国と国との争いはなしにすむようになると論ずる人もある。われらから見ればこれはいずれもよほど間違(まちご)うた説で、もしまじめにかような説を信ずる人が多数にあったならば、国としての平素(へいそ)の用意に悪い影響をおよぼすかもしれぬから、ここにいささか他の動物に比して人類の生存競争を論じてみようと思う。」
上記のとおり、適者生存論を人類にもそのままあてはめるのは少し極端かと思われますが「人類も生物の一種である以上、他の生物と見かけ上の競争形態は違えど、生存競争の環境・状況にさらされている点は同じである」という視点は非常に興味深く感じます。
それでは今回はここまでとして、次回はこの続きからご紹介したいと思います。
(文責:弁護士 澤村康治)