澤村こうじ法律事務所

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コラム2024年1127

名言紹介(44)「末広厳太郎 その7」

 末広厳太郎の名言紹介を続けます。

「 これを要するに、法学教育は一面において、法典(ほうてん)、先例(せんれい)、判決例(はんけつれい)等すべて法律的に物事を処置する規準となるべきものの知識を与えると同時に、他面、上述のごとき「法律的に物事を考える力」の養成を目的とするものであるにもかかわらず、とかく一般人にはこの後の目的が眼につかないのである。先日三上文学博士(みかみぶんがくはかせ)が貴族院でされた演説のなかで、法科万能(ほうかばんのう)を攻撃し、法学的素養(ほうがくてきそよう)の価値を蔑視(べっし)するような議論をしているのも、畢竟(ひっきょう)この種の認識不足に基づくのである。法学教育を受けた人々が、実際上「法律技師」としてよりはむしろ、局課の長として用いられてゆく傾向があるのは、要するに、これらの人々が法学的素養を持っているために、多数の人を相手にして多数の事柄を公平に秩序正しく処理せねばならない局課長のような地位に向いているからである。法学教育は特にそういう力の養成を目的としているのであるから、その教育を受けた人間がそういう力を必要とする地位に就くのは当然であって、何の不思議もない。しかるに、ひとり三上博士に限らず、法学教育の真面目(しんめんもく)に通暁(つうぎょう)しない人々のあいだには、とかくこの明々白々(めいめいはくはく)たる事理(じり)が十分理解されていないのである。」

 上記の「三上文学博士」というのは、明治・大正・昭和期の国史学者・政治家:三上参次(みかみさんじ)のことです。大正期には「狭い範囲の専門知識しか持たない法学士が、官僚組織その他の社会の重要ポストをほぼ独占しているのはけしからん!」という「法科万能主義批判」が湧き起こったようです。末広はそのような批判に対して、上記のように反論しているわけですね。
 それでは今回はここまでとして、次回はこの続きからご紹介したいと思います。

(文責:弁護士 澤村康治)
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